糖尿病とは
「糖尿病」はまさしく尿に糖(ブドウ糖)が出る病気ですが、必ずしも病気の本当の内容を表していません。
世界保健機構(WHO)では、糖尿病を“慢性の高血糖状態”と定義しています。血液中のブドウ糖が異常に増えて(これを高血糖といいます)、放置するとその状態が続くのが糖尿病です。
糖尿病の原因
糖尿病は正確には一つの病気ではありません。いろいろな原因があり、いわば一種の症候群です。
いわゆる生活習慣病の一つとして注目されている糖尿病は2型糖尿病とよばれるものです。もっとも多いタイプですので、これについて説明します。このタイプは遺伝的な素質に過食・運動不足・肥満やストレスなどの環境の要素が加わって病気として現れると考えられています。血液中のブドウ糖の量は膵臓から出るインスリンというホルモンが主に調節しています。このホルモンの働きが悪くなる(インスリン作用の不足と言います)のが糖尿病の本態です。
インスリン作用が不足するのには、膵臓からのホルモンが十分に出なくなる場合(インスリン分泌不全)と、せっかく出ても十分に働かない場合(インスリン抵抗性)のあることが知られています。日本人では分泌不全が多く、欧米人では抵抗性が多いといわれていますが、もちろん両方が重複して認められる人も多くいます。
インスリン抵抗性が生ずる最も多い原因は「肥満」です。
一度なると治らない?
膵臓からのインスリンの分泌が十分でなくなって糖尿病になった場合には、その回復は難しく、現状ではほぼ治らないと考えてよいでしょう。継続して治療が必要です。
しかし、まだ一般的ではありませんが膵臓の細胞の移植による糖尿病の完治や、その細胞の減少予防や増殖効果が期待されているインクレチン関連薬による糖尿病の進行予防や治癒など、まったく期待が持てないわけではありません。
一方、肥満などを主な原因としてインスリンの効きが悪くなった場合には、その原因を取り除けば糖尿病が解消する可能性があります。また、いわゆる糖尿病予備軍とよばれる状態の時に生活習慣の改善や糖尿病と同じような治療を行うと糖尿病にならないで済む、という研究成績がいくつも発表されています。
糖尿病と遺伝
明らかに一つの遺伝子の異常で発症する糖尿病がありますが、糖尿病全体のごく一部です。大多数の糖尿病は遺伝との関係がよくわかっていません。
しかし、この分野の研究に最近大きな進歩がみられました。
アジア人は欧米人に比べて遺伝的にインスリンが出にくくなりやすい体質を持っていることがわかっています。
また、ヒトのゲノム(蛋白質やホルモンなどを作るための遺伝情報)には人によって一カ所だけ違うところ(SNP、スニップ)がところどころにあり、この違いによって糖尿病になりやすいかどうかが決まることが判明しました。
しかし、糖尿病になりやすいと最近注目されているTCF7L2と呼ばれる遺伝子のスニップがある型であっても、糖尿病になる危険性はせいぜい1.5倍程度であるとされています。これは食べ過ぎや運動不足によって糖尿病になる危険性よりもずっと低いと考えられます。言い換えれば、遺伝によって糖尿病になることを心配するよりも、生活習慣を改善する方がはるかに大切であるということになります。